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第十一話『ルイズVSキュルケ』 「ねえ、その本どうしたの?」 ここはルイズの部屋――夜も更けた頃、リンゴォが一冊の本を読んでいた。 「これか? 借り物だ」 勿論本人には無断で借りている。 「ひょっとして図書室から勝手に持ち出したんじゃないでしょうね? そういう規則には厳しいんだから、ばれない内に返しときなさいよ?」 「それもそうだな…。それに、どうやら本を読むのはまだ難しいようだ」 リンゴォは立ち上がるとドアの方に歩いていく。 「え、今から行くの?」 「ああ。忘れ物も思い出したしな」 「っていうかアイツ…字が読めないんじゃなかったの?」 ルイズ一人の部屋を二つの月が照らしている。 (それにしても――) (アイツ、プライドっつーモンがあるのかしら?) 戻るつもりは無い、だとか言っておいて、リンゴォは何事もなかったように帰ってきた。 自分なら、あんな啖呵を切った手前、どんな顔をしていいのかさえわからない。 (いえ…逆ね……) 彼にとっては、同じなのだ。自分など、いても、いなくても。 何事もなかった『ように』ではない、本当に『何事でもなかった』のだ。 (つくづく人のプライドを…壊してくれる使い魔ね……) 「ねえアンタ…わたしが『強くなれる』って言ったの……本当?」 誰もその言葉に答えるものはいない。 (ああ…鞘を抜かなきゃ喋れないんだっけ…) ルイズはその『剣』を引き抜く。 「おうよ! このデルフリンガーに二言はねぇぜ!」 「いいか嬢ちゃん、真剣ってのは案外重いモンでやたらめったら振り回しても――」 「あのね! 別にわたしがアンタを使うわけじゃないのよ! 見てわからない? こんなか弱い、うら若き乙女が…」 「じゃああの時強くなるって言ったのはウソかよ! そうは思えねぇぞ!」 「それとこれとは別よ! アンタは別の男が使うの! …多分だけど」 「何ィ、聞いてねえぞ! それに多分ってのは――」 ルイズはデルフリンガーを鞘にしまった。 この剣を買ったはいいのだが、その後の出来事に呆気にとられ、リンゴォには渡しそびれていた。 それに、キュルケとの賭けもある。あまり対等と呼べるものではないが、それでも賭けは賭けだ。 (それにしても…失礼な剣ね! 強くなるっていったら、普通は魔法じゃないのよ! そんなにわたしがメイジに見えないっていうの? メイジの強さは、魔法の強さよ!) ――ならば、自分の強さは? 考えるまでもない。だから強くなると誓ったのだ。 魔法の使えぬメイジなど、他の誰が許しても、己の心が許さない。 (だけど…魔法が使えるようになって、なったとしてそれで――― アイツに、リンゴォに何の関係があるのよ?) ルイズが求めるのがメイジとしての強さなら、リンゴォにそれを誓う必要は無かったはずだ。 (ギーシュは何が強くなったの?) 『強くなる』というのは、剣だとか魔法だとか、そういったレベルの話ではないような気がする。 (じゃあ、何だっていうのよ!) それが、わからなかった。 考えてもわからないなら、動かすのは体だ。 「魔法を使えるようになることには、とりあえず何の不都合もないのよ!」 ルイズはこっそりと外に抜け出た。 ルイズは割りとくよくよ悩むタチだ。 だがルイズはくよくよと悩んでいる自分が好きではないし、悩むだけでは終わらないタチだ。 夜の広場。爆音を気にするような人は近くにはいない。 爆風が悩みを吹き飛ばしていく。 唱えては爆風。振り下ろしては爆音。無心に、それを繰り返す。 要するに、全然成功していないという事だ。 「ハァ…ハァ…! ……何なのよ…!」 結局何の進歩もないことにルイズは毒づく。 「わたしの…何が悪いのよ…!」 吹き飛ばした悩みが、おまけをつけて戻ってくる。 全て完璧だったはずだ。なのになぜ失敗する? サモン・サーヴァントはルイズにわずかな希望を与えた。 成功した! そう思った。 少しだけ希望で喜ばせておいて…結局そんなものは無価値だ、と断じられる。 悩みは吹き飛ばしたってあっという間に帰ってくる。 いっそ、爆発も無い静寂であれば、もっと穏やかに生きられたかも知れぬ。 一心同体であるはずの使い魔の目…余計に自分を沈ませる。己を『ゼロ』だと断じている。 ――お前は、無価値だと―― なぜ自分は貴族なんかに生まれてしまったのか? なぜ強くなるなんて誓った? 魔法も使えず、どう強くなる? 悩みを忘れるためにここへ来て、結局再びそこに囚われている。 何かわからないものへのどうしようもない怒りが、ルイズに杖を振らせた。 「何をしているんです?」 後ろから、声がかけられる。 「ミ…ミス・ロングビル……」 人に気付かれぬようにこっそりと練習していたはずが、ルイズは随分と大きな爆発を起こしていた。 「何をしているんです? こんな夜更けに一人で出歩いて」 よりにもよって、オスマンの秘書に見つかってしまった――マズイ、とルイズは思いながらも、 正直ありがたいと思った。 あのまま一人でいては、色んなものに押しつぶされそうだった。 とはいえ、夜中に抜け出しているところを見つかったのは問題だ。 「…あの~、この事はどうか、ご内密に――」 「聞こえませんでしたか? こんな夜中にこんな所で何をしているんです?」 こういう性格だから、オスマンの秘書が務まるのだろうな、とルイズは観念した。 「……その…魔法の、練習を……」 ロングビルは一瞬呆けたような顔を見せたが、すぐにいつもの冷静な表情に戻った。 「…練習ですか……ああ、あなたは――」 そこでロングビルの言葉が途切れる。 『ゼロのルイズ』――最後まで言われなくても彼女が何を言いたいかぐらいルイズもわかる。 「誰でしたっけ?」 「へ?」 予想外の答えに、ルイズは素っ頓狂な声を上げた。 「授業にも障りが出るというのに淑女の卵がこんな時間に出歩いている……本来であれば、 上に報告しなければならないところですが、名前がわからなくてはどうしようもありませんね…」 名前なんて今聞けばわかる。ルイズは理解した。この場は見逃してくれる、という事だ。 厳しそうな人だとばかり思っていたが、案外それだけでもないのかもしれない。 「魔法の練習も結構ですが、それはレディの格好ではありませんよ。 一人前のレディになりたければ、早く部屋に帰って、明日に備えて寝ることです」 言われてみれば、ルイズの服(ルイズ自身も)は随分と汚れている。 見逃してくれた事への感謝の意味も込め、ルイズは一礼してその場を去ろうとする。 が、頭にこびり付いた『ある疑問』がルイズをその場にとどめた。 「あの…『強い』って何なんでしょうか……?」 ルイズはなぜ自分がこんな質問をしているかわからなかった。 ロングビルも不思議そうな顔をしている。が、すぐにもとに、いや少しだけ表情を緩ませた。 「…『強い』とは…そうですね、『土』でしょう」 「いえ、属性とかそういう話じゃなくて――」 「大地は――土は常に我々を支えています。土は流した血も涙も屍も、拒む事はありません。 どんな人も、大地なしには生きられません。そして土へと還っていきます。 大地にはこれまでの歴史の全てが埋まっているのです。これを強いと言わずしてなんとしましょう?」 「なぜ落ち込んだとき人は下を向くかわかりますか?」 「…いいえ……」 「土は我々に力を与えてくれるからです。大地を見れば勇気がわいてくる。 『勇気』とは『強さ』です。大地があるから人は立ち上がれるのです」 「…話が過ぎましたね。さ、これ以上遅くならないうちに部屋に帰りなさい。 こんな夜中をうろつくのは、今日が最後ですよ? そうでなくても、最近は物騒なのですから」 ロングビルが歩き出す。ルイズも今度こそ部屋に帰ろうと歩き出した。 「ミス・ヴァリエール!」 その背中を、今度はロングビルが呼び止める。 「強くなりたければ、根を張りなさい。 一度も空を飛んだ事の無いあなたなら、誰よりもそれがわかるはずです」 返事はしなかった。 ロングビルの姿が見えなくなる。 (やっぱり、名前、わかってたんじゃない――) ――翌日、ルイズは何事もなく授業を終えた。 なんだかタバサの具合が悪そうに見えたが、それはどうでもよかった。 デルフリンガーを携え、キュルケの元へ向かう。そう、『賭け』のためだ。 キュルケの自室には、キュルケと、もう一人タバサがいた。 頬がこけて見えるし目の回りにはクマも浮かんでいる。本当に大丈夫だろうか? 「なんでも、昨日の晩の爆発音が気になって寝不足だったらしいわよ。 わたしはそんな音全然聞こえなかったんだけどね。ルイズ、アンタは聞こえた?」 「全然聞コエナカッタワヨ? 幻聴ジャナイ?」 そんなことはどうでもよろしい。 「で、諦める覚悟は出来たの? ルイズ」 「何を諦めるって言うのォ? ミス・ツェルプストォォオ」 「決まってるじゃないの、マイ・ダーリンよ。アンタとダーリンじゃ不釣合いなんだから、 さっさと引越しさせてあげなさいよ。そしてここは! 二人の愛の巣となるのよ!」 いつの間にかベッドに仰向けになったタバサが、露骨に嫌そうな顔でキュルケを見ている。 「バカ言ってんじゃないわよ! 勝つのは――」 「何の話?」 タバサが話に割り込んでくる。人の話を邪魔しないでほしい。具合悪いなら帰ったら? 結局、キュルケが事情を一から説明する。 それを聞き終えたタバサが一言。 「公正じゃない」 風向きが変わる。チャンスだ、ルイズはそう思った。 「ちょっとタバサ、何言ってんのよ! ルイズは自分でこの『賭け』を受けたのよ?」 「その通りよタバサ、残念だけど、キュルケはこのぐらいハンディがなきゃ勝てないのよ」 さあどう出るキュルケ! 「聞き捨てならないわね! いいでしょう! 『公正』に! 『決闘』といこうじゃないの!」 かかったァ――ッ! サンキュー、タバサ! 「時は今夜! 所は中庭ッ!」 落ち着きなさい、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。冷静にイニシアチブをとるのよ…。 「待ちなさいよ、方法はどうするの? リンゴォの時のようにはいかなくてよ? 貴族同士の決闘は禁止されている」 「フフ…貴族同士の決闘ってのは、要するに魔法を使った決闘って事でしょ? 魔法を使わなきゃ、ただの悪ふざけ、決闘でもなんでもない……そこでよ! 決闘方法は『剣』ッ! わかりやすいでしょう?」 耳を疑った。何を言ってるのだこいつは? 二人とも剣なんてド素人のはずだ。 命のサジ加減がつかない! 下手をすれば二人とも死ぬッ! 「…正気?」 「恋は狂気よ。それとも怖いの? ヴァリエール」 今度はルイズに火がついた! 「上等じゃない! 受けて立つわッ! 首を洗って待ってなさい!」 啖呵を切って部屋を出るルイズ。 「…本気?」 タバサが尋ねる。 「安心しなさいよ。何も命の遣り取りをしようってんじゃないわ。 あのナマクラ刀をへし折って……それで終いよ」 「ねぇ、アンタの事、わたしが使う破目になったわ」 「オオッ、うれしいこと言ってくれるじゃないの、それじゃ、トコトンやってやるからな」 「勘違いしないでよね! 今回だけなんだから!」 そう、今回で終わるかもしれない。人生も。 ルイズはデルフリンガーを構えてみる。 「どう?」 「何が?」 「何がって、わたしの構えよ! それぐらいは教えてくれてもいいんじゃないの!?」 「そーだなァ、もうちょっと腰を落として……」 夜は更けゆく。 ――深夜、中庭――三人の少女の影。そのなかに、一頭の竜が舞い降りる。 「立会人はタバサよ。いいわね?」 「危なくなったら、シルフィードが止める」 万が一の起こる直前に、風韻竜の超高速の一撃で全てを終わらせる腹積もりだ。 ルイズは無言で頷く。 四、五歩ほどの距離に二人は立つ。 「構え」 ゆっくりと剣を引き抜く。 ルイズの構えは、デルフリンガーのアドバイスでマシになったにせよ、素人丸出しである。 対するキュルケも剣は素人であるが、天性のものか、なかなか堂に入って見える。 ――これほどか―――― キュルケは今初めて、己が相手の命を握っているのを知った。同時に相手も、己の命を握っている。 ルイズは大上段に、キュルケは脇構え。 二人ともでまかせの剣技である。それ故、対手の命がか細く見えた。 「始め」 タバサの声。 キュルケは恐怖した。ルイズにではない、己自身にである。 果たして、ルイズを生かせるか? ――甘い。 タバサはそう感じた。 命を張り合った事に、ここまできて初めて気付いた。それで、どうするというのだ。 もっとも、そんなキュルケをわかっていたからこそ、タバサは友を止めなかった。 ルイズのほうは、予想以上に肝が据わって見えるが、それでもためらいが見て取れる。 結局、両者に大した違いは無い。 キュルケが動いた。 不安と焦りからか、一気に距離を詰めるキュルケ。 一方のルイズは、まだ動かない。 「マダだッ、まだ動くなよッ、嬢ちゃんッ!」 キュルケが剣を振る。ルイズに当てるわけにはいかない。剣は虚空を斬る。 「今ッ!!」 地を踏みしめ、腹の力で一気に振り下ろす。 キュルケの剣は、あっさりと折れた。 勝者も敗者も、何も言わなかった。 心の底から安堵した。相手が生きていた事に。 心の底から恐怖した。友の命を握った自分に。 勝負の行方は、タバサの予想通りに収まった。ただ、どちらが先に動くかの違いだ。 (なんだかんだで、仲がいい……) タバサは二人の関係を、少しうらやましくも思った。 わずかな振動にタバサは気付く。 直後、大気ごと地面が震えた。 『それ』を見た瞬間、タバサはシルフィードに二人を乗せ上空へと退避する。 「デカいッ! ゴーレムよ!」 その巨大なゴーレムを目にした二人が慌てふためく。 「どっ、どうすんのよ!」 「どうするって、敵でしょ、敵! どー見ても!」 「だったら! 攻撃あるのみよ!!」 先走ったルイズが放った魔法は、30メイルもあるゴーレムにかすりもせず、 地面と壁を爆破するだけに終わった。 「……すみませんでした…調子コキ過ぎました……」 こうして、『土くれのフーケ』との戦いが始まることとなる。
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autolink ZM/W03-067 カード名:恋多き女 キュルケ カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:2 コスト:2 トリガー:1 パワー:8000 ソウル:2 特徴:《魔法》? 【自】このカードがアタックした時、クライマックス置場に「微熱の誘惑」があるなら、あなたは自分の控え室のキャラを1枚選び、手札に戻す。 【起】[④]あなたは相手の前列のレベル2以下のキャラを1枚選び、控え室に置く。 契約を交わした使い魔は主人に絶対忠実… レアリティ:C illust.ヤマグチノボル・メディアファクトリー/ゼロの使い魔製作委員会 特徴は《魔法》と扱いやすい。 CX対応で控え室のキャラクターを回収できる。この能力が有用であるのはすでに証明済みである。しかしレベル2であることがネックではある。 2つ目の効果は前列カードの除去 レベル制限はあるもののそれなりに優秀。 ただコストが重いところが難点だろうか。 ・対応クライマックス カード名 トリガー 微熱の誘惑 2
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ギーシュvs億康 ギーシュ「たった今、起こった事を話そう。 僕は平民と決闘をしていた。ルイズの平民がゴーレムのような物を出して、僕が出していたワルキューレ一体を消し飛ばした。 なので僕は本気になってワルキューレをありったけ出して対抗した。 7対1にも関わらずワルキューレ達の旗色が悪かったんで、僕は支援する為に石礫を放った。 その平民はなぜか届いていないはずの石礫に当り気絶した。 気付いた時にはいつの間にか僕が勝っていたんだ。 何を言っているか解らない?直接戦って勝った僕もさ・・・ 僕はコイツの能力に得体の知れ無い恐怖と、使いこなせなければどんな力も意味が無い事を感じた。」
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前ページ次ページギーシュ・ド・グラモンと黒バラ女王 女王はギーシュのことを酷く嫌っていた。 その理由は昨日のギーシュの行動に起因している。 彼女は封印されている間、自分が自由になることだけを考えていた。 そのため、ガラス玉の中に居る内はギーシュに対して怒りや憎しみを感じることはほとんど無かった。 ところが、一度封印が解かれてしまえばそのようにはいかなかった。 ギーシュ達が森の中で茨の蔓から逃げていた頃、暇を持て余していた女王はふとあることを思い出していた。 昨日のギーシュとの会話の内容である。 彼は女王のことを"使い魔"と言っていた。 「さあどうした? 早くこのゴミを片付けろ」 一向にギーシュをいたぶろうとしない生徒達に対し、女王は再び命令をした。 一同を見下ろす女王の瞳は紅色の光を放っている。 ギラギラと燃える太陽のような瞳から照りつける赤い光が彼らの肌をじわじわと焦がす。 彼らの居る場所の気温は急激に上昇していった。 耐え難い暑さは彼らの思考力を段々と奪っていく。 突如、一人の男子生徒が奇声を発しながらギーシュに向かって走り出した。 「うあああ! きああああああ!」 その生徒は握り締めた右の拳を時計回りに捻じらせながら斜め上方に打ち出した。 全身を突き上げるような拳を受けて、ギーシュの鳩尾に鋭い痛みが走る。 ギーシュは腹部を押さえながら後ろに退いた。 すると、彼の後ろまで迫っていた別の男子生徒が彼の右上腕に回し蹴りを喰らわせた。 ギーシュは右上腕三頭筋に痺れを感じた。 その瞬間、始めに彼に殴り掛かった生徒が彼の背部に右肘を落とした。 その一撃を喰らうと、前屈みになっていたギーシュはそのまま膝をつき、うつ伏せに倒れてしまった。 「ちょ、ちょっと待ってよ……?」 ルイズのすぐ傍では凄惨な私刑が行われていた。 それは女王による理不尽な制裁だった。 女王の怒りを買うことを恐れた生徒達はギーシュを袋叩きにする。 体を丸め頭を両腕で隠したギーシュは、横倒しにされないように必死で顔を地面に擦り付けていた。 彼は顔面をまともに蹴られることだけは避けようとしていた。 「や、やめてよ! やめなさいよ……」 ルイズには彼らを止めることはできなかった。 ギーシュを責め立てる彼らの異様な気迫が彼女を足を竦めさせていた。 仄暗い灼熱の闇の中、溢れ出す汗を飛び散らせながらルイズ以外の生徒達は拳を振り下ろした。 朦朧とする意識の中で、彼らは蹲るギーシュを一心不乱に踏み続けていた。 「ルイズ!!」 汗で顔に前髪を張り付かせたキュルケがルイズに抱きついた。 「ツェ、ツェルプストー! な、何よ!」 身動きを封じられたルイズは乱暴に締め付けられた。 「ルイズ! あ"んたも一緒にやりなさい!」 キュルケはかすれた声でそう叫ぶと、嫌がるルイズを無理矢理生徒達の輪の中に押し込んだ。 ルイズが今立っている場所は先ほどまでキュルケが立っていた場所である。 「嫌!!」 体を左右に激しく揺らし、ルイズはキュルケを振り払った。 「こんな酷いことして! あんた達、それでも貴族だって言えるの!!」 ルイズの熱が篭った怒号に、一同がギーシュへの攻撃を止めた。 彼らの視線が砂塗れになっているギーシュからルイズへと変わる。 「邪魔すんのか」 男子生徒の一人がルイズを睨み付けた。 「あ、当たり前じゃない!」 ルイズも精一杯の睨みを利かせてその生徒に応えた。 一触即発の雰囲気の中、無言の時間はしばらくの間続いた。 「ルイズ!!」 沈黙を破ったのはキュルケだった。 「あのねぇ! これはここにいる全員の命に関わることなの!」 キュルケはルイズの両肩掴み、彼女を自分の方に向けた。 そして力の限りルイズの肩を握り締め、彼女を揺さぶった。 「ただ殴るだけ! 殺すわけじゃない! 女王様の言うとおりにしなきゃ駄目なの!!」 顔をルイズに近づけながらキュルケは絶叫する。 「私もあんたも! ギーシュもみんなも! そうしなきゃ殺される! 死んじゃうのよ!!」 「そんなことはないさ」 キュルケの叫び終えると、それに答えるかのようにあっけらかんとした声が響いた。 それは、彼らの様相を楽しげに眺めていた女王の声だった。 「ギーシュが終わったら、次はお前。赤い髪は嫌いだからね」 足元で蠢く小さな人間達をせせら笑いながら女王は話を続けた。 「でもそれで終わりじゃないよ。最後の一人になるまで続けるんだ」 にこやかに細められた巨大な目が一同を冷たく見つめた。 「最後に残った子だけは助けてあげるよ。もっとも、もうこの国には食べ物も飲み物も……帰る場所さえ残ってないだろうけどね」 女王は椅子から身を乗り出し、満面の笑みで自分の真意を彼らに伝えた。 「おーっほっほっほっほっほっほっほ!! あーっはっはっはっはっはっはっは!!」 「そ、そんな……」 生徒達はそのとき気がついた。 彼らが最後の希望だと思い込んでいたものは、女王が彼らにより深い絶望感を与えるために用意したものだったということに。 絶望の淵に落とされた生徒達は支えを失った人形のように地面に崩れ落ちた。 ある者は呆然と座り込み、またある者は止め処なく泣き続けた。 「ひ……あう……」 その時、全身を負傷したギーシュは地を這いながら森の奥に進もうとしていた。 他の生徒達の攻撃の手が止み、女王が空を見上げながら高笑いしている今は、ギーシュにとってこの場から逃げ出す最大のチャンスであった。 前ページ次ページギーシュ・ド・グラモンと黒バラ女王
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前ページ次ページギーシュ・ド・グラモンと黒バラ女王 「な、何も見えないじゃないか」 ギーシュが呟いた。 茨のトンネルを抜けた先、半径80メイルの半球――茨の壁に囲い込まれた空間は完全に闇に包まれていた。 ひしめくように群生した蔓の間からは僅かな光さえも差し込まない。 辺りの確認をするためには何らかの光源が必要であった。 そこで、キュルケとタバサは照明の魔法、ライトを唱えた。 しかし、杖の先端から発せられる光は彼らの体を照らす程度にしか広がらない。 この閉鎖空間には濃霧が立ち込めていた。 彼らは皆、言い知れない恐怖に襲われた。 「ちょ、ちょちょっとこれ、ど、どうするの?」 キュルケがタバサの肩に手を乗せながら訊ねた。 タバサのマントを握り締める彼女の手は微かに震えている。 「……」 タバサは俯いたまま口を開こうとしない。 「あ、貴女だったらこういう時にどうすればいいか知ってるんでしょう!?」 タバサを振り向かせると、キュルケは縋るように問い詰める。 「……わからない」 タバサは素っ気無く答えた。 しばらく無言の時間が続くと、突然目の前の霧が晴れた。 そして数秒の後、強い光が霧の無い方向から発せられた。 「な、何!?」 ルイズは目を凝らした。 暗闇の中にぼんやりと人影が浮かび上がる。 そこには白い長髪に長い白髭を蓄えた老人がいた。 「オールド・オスマン!?」 長い杖から強力な光を発している老人、オスマンはこの魔法学院の最高責任者である。 彼は学院中央にある本塔の最上階にいた。 「こっちじゃ! こっち!」 オスマンは学院長室の窓から身を乗り出してルイズ達に手招きをする。 シルフィードは15メイル程身を進ませると、長い首を下ろしてタバサとキュルケが窓を通りやすいようにした。 そして、両前足で抱えたルイズとギーシュを学院長室の中へ入らせると、部屋に入れないシルフィードは本塔の屋根の上に腰掛けた。 ギーシュが部屋に入ると、険しい顔をしたオスマンが彼に近づく。 「さて、ミスタ・グラモン」 オスマンはギーシュと目を合わせる。 ギーシュはオスマンの気迫の篭った眼差しにたじろいだ。 「詳しく話を聞かせてもらいたいのだがの。君の召喚した使い魔について」 部屋中に張り詰めた空気が漂う。 「あ、いえ……その、彼女は」 巨人について説明を求められるのだろうということは、ギーシュも何と無く予測はしていた。 しかし実際に問われてみると何も言うことができない。 「だからその、玉が割れたら急に大きな薔薇が生えてきて」 「君とミス・ヴァリエールの使い魔との決闘については、そこにある遠見の鏡で始めから見ておった」 オスマンはタバサ達の方を向く。 「そして何故、君達が学院に戻って来たのかも分かっている」 ギーシュに再び厳しい視線が向けられた。 「私が聞きたいのは君だけが知っていることじゃ」 オスマンの指摘はギーシュが説明すべき内容を限定した。 ギーシュは昨日の巨人との語らいについて話す。 ガラクタを召喚したと思い塞ぎ込んでいたことや、ガラス玉の中にいたバラの精が自分に話しかけてきたことをギーシュは皆に打ち明けた。 「それで、彼女は自分が悪い奴らに閉じ込められているから、ここから出して欲しいと……」 その時のことを思い出しながらギーシュは話を続ける。 「だから僕もガラスを割ろうと色々試してみたのですが、その、何をやってもガラスは割れなくて……」 その日のギーシュは昼頃から夕方になるまでガラス玉を割ろうと努めていた。 「それで彼女はもうやらなくていいと言って、一ヶ月くらいは眠らせてくれと言ってきました」 昨日のバラの精とのやり取りについて、ギーシュは全て話し終えた。 話は今日の決闘の最中の出来事に移る。 平民に負けそうになり焦っていたこと、そして眠っていたはずのバラの精の声が急に頭の中に響いてきたことを話した。 「彼女は、私に任せてくれば何も問題ない、そう言いました。それでルイズの使い魔に自分を投げつければ、きっと彼が封印を解いてくれる、って」 「ガンダールヴの力を利用したのか」 オスマンは髭を撫でながら言葉を漏らした。 (ガンダールヴ?) ルイズはサイトのことを指すその言葉を不思議に思う。 ギーシュは話を続けた。 「それから後は、彼が剣でガラスを割って……後のことはみんなが知っている通りです」 話を終えギーシュは皆の様子を伺う。 「ふむ……つまりミスタ・グラモン、君は騙されていたということかの」 「は、はい!」 ギーシュは畏まった顔で答えた。 「ときにオールド・オスマン、私達の方からもお聞かせ願いたいことがあるのですが」 ギーシュがもう話すことが無いのを確認すると、キュルケはオスマンに問いかけた。 「今、この学院はどのような状況にあるのですか? あの化け物の姿も見えませんし」 二分間ほど学院から遠くに離れていた彼女達には現在の学院に関する情報が無い。 オスマンが一度は晴らした空は、再び深い霧に包まれた状態に戻っていた。 学院長室の窓から外を確認することはできなかった。 「この学院が謎の植物によって覆い尽くされている、ということは君達もわかっているじゃろう。問題なのはミスタ・グラモンの使い魔についてじゃが……」 オスマンは学院長室の扉を開ける。 「それは宝物庫まで行く途中に話すとしよう」 ギーシュ達はオスマンに導かれるままに学院長室を後にした。 前ページ次ページギーシュ・ド・グラモンと黒バラ女王
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翌日。いつものようにフレイムをギアッチョの監視に行かせたキュルケは、彼らが馬に乗ってどこかへ出掛けた事を知った。ここ数日でギアッチョを危険だと感じた事はなかったし、もうぶっちゃけ監視とかしなくてよくね?時間の無駄じゃね?と思いつつあったキュルケだが、学院外に出るという今までに無いパターンだったので念の為もう一日だけ監視を続行することにする。 キュルケが急いで支度を済ませて廊下に出ると、ルイズの部屋の前で棒立ちしていた男と眼が合った。松葉杖をつき、服の下からは包帯が見えている。ギーシュ・ド・グラモンその人であった。 「・・・あなた何してるの?」 キュルケはいぶかしげに尋ねる。 「・・・や、やあキュルケ ちょっとルイズに用があるんだが・・・まだ寝てるのかここを開けてくれなくてね・・・」 ギーシュはばつの悪そうな顔をしながら答えた。 「用?あなたがルイズに?またあの子に何かしようとしてるんじゃないでしょうねぇ」 「そ、それは違う!僕はただルイズに謝ろうと・・・」 聞けばギーシュは二股をかけており、そいつがバレた上にビンタでフられてムカムカしていたところにルイズとぶつかってモンモランシーの為の香水がブチ割れて、彼は怒りで周りが見えなくなってしまったのだという。 「・・・呆れた 完全に逆恨みじゃない あなた貴族としてのプライドってものがないの?」 二股のくだりだけはキュルケに文句を言われる筋合いはないはずだが、概ね正論だったのでギーシュは黙って耐えた。 「それで、謝りたくてやって来たんだが・・・」 「ルイズならもういないわよ」 「な、なんだってーーー!?」 物凄い顔で驚くギーシュにキュルケは溜息を一つついてから、 「ルイズと一緒にギアッチョもいるんだからどっちか一人は気付くでしょ 常識的に考えて・・・」 とのたまった。その「ギアッチョ」という言葉に、ギーシュの体がビクリと反応する。 「・・・そ、そそそういや彼もいるんだったねぇ・・・ハハハ・・・ハ・・・」 ギーシュにとってギアッチョは相当トラウマになっているようだった。ヒザが滑稽なぐらいガクガク笑っている。 あんな目に遭っておいてトラウマになるなというほうが無理な話ではあるが。 「私はこれからタバサに頼んでシルフィードでルイズ達を追いかけるつもりだけど・・・あなたはどうする?」 キュルケの助け舟に、「是非とも一緒に・・・」と叫びかけたギーシュだったが、 「・・・ちょ、ちょっと待ってくれたまえ ルイズ『達』ということは・・・」 「勿論ギアッチョもいるわよ」 ビシッ!と心臓が凍った音が聞えた。ギーシュは「・・・あ・・・あう・・・」とまるで懲罰用キムチでも食らったかのように呻いている。 そんなギーシュを見てキュルケは更に溜息を重ねると、 「どの道ギアッチョはルイズの使い魔なんだから、いつでもあの子と一緒にいるでしょうよ ルイズが一人になる隙をうかがうよりは今特攻したほうがスッキリすると思うけど?」 生きていればね、と小さな声で付け加えてギーシュを見る。 「き、聞えてるぞキュルケ!やっぱりダメだ・・・ここ、こっそりルイズに手紙を渡して人気の無いところへ呼び出して・・・」 常軌を逸した怯え方である。殺されかけたという事に加えて、自分の魔法をことごとく破られ跳ね返されたという事実が彼の恐怖を加速させていた。 キュルケは呆れを通り越して哀れになってきたが、いい加減出発しないとシルフィードでもルイズ達を見失うかもしれない。 これを最後にするつもりでキュルケはギーシュに発破をかけた。 「あなた少しは男らしいところ見せなさいよ こんなところをあの使い魔が見たらまた『覚悟』が無いとか言われるんじゃあないの?」 「――!」 その言葉に、ギーシュは動きを止めた。彼は何かを考え込むようにわずか沈黙し、真剣な眼でキュルケを見る。 「・・・ねぇ君 『覚悟』って一体何なんだろう」 先ほどまでのヘタレ具合とは一転、彼の眼には苦悩の色が浮かんでいた。 「あの男――ギアッチョに言われたことがずっと耳から離れないんだ 『覚悟』って何なんだ?彼と僕と、一体何が違うんだ? ギアッチョと僕を隔てる、絶対的な何かがあるのは解る だけど一体それが何なのか、いくら考えても答えが出ない」 ギーシュの懊悩は、キュルケには解らない。あの男の真の凄み、そして恐ろしさは、対峙してみなければ理解は出来ない。ギーシュはそう知りつつも、誰かに疑問をぶつけずにはいられなかった。例えギアッチョと同等の能力を持っていたとしても、 自分は永遠に彼に勝つことは出来ない。そうさせる何かが、あの使い魔にはある。 自分にはそれがない。その事実がただ悔しかった。 「あの決闘で――自分がどれほど自惚れていたのかを思い知らされたよ」 ギーシュはうつむいて言葉を吐き出す。 「・・・そして どれほど愚かだったのかも」 なまじっか顔と成績がいいばっかりに、高く伸びていたギーシュの鼻をヘシ折れる生徒は存在しなかった。そのギーシュを完膚なきまでに叩きのめしたのは、タバサでもキュルケでも、マリコルヌでもモンモランシーでもなかった。 ゼロと蔑まれていた少女、その人間の、しかも平民の――加えて言うならば顔もよくはない――使い魔だったのである。 ギーシュのプライドは粉々にブチ割れた。そして同時に、自分がどれほど他人を見下していたかを理解した。 「こんな屈辱に――ルイズはずっと耐えてきたんだ ・・・僕は 僕はどうしようもなく馬鹿だった」 彼女に謝罪しなければならないと言うギーシュの眼は、紛れもなく本気だった。 タバサはキュルケ達の頼みを快諾した。他でもない唯一の親友キュルケの頼みだという事もあるが、あのギーシュがそりゃもうジャンピング土下座でもしそうな勢いで頼み込んで来たのである。 それも己の利益の為ではなく、純粋に少女への謝罪の為とくれば、いくら虚無の曜日とはいえタバサも力を貸すにやぶさかではなかった。 そういうわけで彼女達は今タバサの使い魔である風竜、シルフィードに乗ってルイズ達を追っている。竜の背中でタバサは中断していた読書を再開し、キュルケはしきりとシルフィードを褒め称え、ギーシュは勢いで飛び出してきたもののやっぱりギアッチョが怖いらしく、時折キュルケの口からギアッチョの名が出る度にビクビクと震えていた。 「ギーシュ あなたいい加減腹をくくったら?」 ちょっと男らしい事を言ったかと思えばこれである。キュルケはまたも呆れていた。 「そ、そんなこと言ったって怖いものはしょうがないじゃないか!自分の魔法で全身蜂の巣にされる恐怖が君に分かるかい!?」 ギーシュがまくし立てると、 「自業自得」 タバサが活字に眼を落としながら呟く。それを聞いたキュルケが思わず噴き出し、ギーシュはもういいよとばかりにがっくりと肩を落とした。
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キュルケ フルネームはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 トリステイン魔法学院に所属する二年生で、『微熱』の二つ名を持つ十八歳。 外見的特長としては燃えるような赤い髪と瞳、褐色の肌、そして身長171cm、スリーサイズB94/W63/H95の極めてグラマラスな体型があげられる。 趣味はジグソーパズル、特技はハープ。 その美貌とプロポーションで1ダース近い恋人を魅了しており、才人にもアプローチを仕掛けたりした。 とはいえ、その性格は熱しやすく冷めやすい為、一人に長く夢中になることはなく、恋愛はゲームと割り切っていた。 後に学院教師のコルベールに命を助けられ、以来、彼に惚れている模様。 タバサとは学院入学以来の親友で、「恋人の代わりはいくらでもいるが、タバサの代わりはいない」と断言しており、その無表情からもなんとなく気持ちを察することが出来る。 お互いに詮索し合わない故に一緒に居たが、彼女の境遇を知ってからは、以前よりも更に深い気持ちを抱いている。 トリステインの隣国、ゲルマニアからの留学生で、実家はルイズの家とは代々犬猿の仲。 キュルケ自身も彼女を嫌いと公言しているが、口で言う程ではなく、からかいつつも、何くれとなくルイズを気にしているようである。 軍人の家系に生まれた火系統を得意とするトライアングルクラス(4段階中3)のメイジであり、魔法の腕はなかなかのもの。 以下に作中で使用した魔法を簡潔に列挙する。 《アンロック》 鍵を開ける魔法。 《発火》 杖から断続的に炎を発射する魔法。攻撃にも、物に火を点けるのにも使える。 《ファイヤーボール》 メロンほどの大きさの火球を作り出し、杖の先から飛ばして攻撃する魔法。 《フレイム・ボール》 ファイヤーボールの強化版で、ホーミング能力を持つ炎を放つ。 詳細は支給品としての解説を参照のこと。 アニメ版の中の人は井上奈々子。 戻る
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「・・・ギ・・・ギアッチョ・・・?」 何がなんだか分からなかった。どうして?どうしてギアッチョが?私を 笑いに来たんじゃないの?それなら何故?私との違いを見せ付けるため? それともただ暴れたいだけ・・・? ルイズの頭には疑問符が次から次へと浮かんでいた。ギアッチョの真意が 分からない。それを確かめようと、ルイズは恐る恐るギアッチョの顔を 見上げようと―― グイッ!! 「!?」 ルイズが顔を上げようとした瞬間、ギアッチョの手によってルイズの頭は 下に押し戻された。 「・・・出たんだろ?ルイズ このガキとぶつかった時に・・・『鼻血』がよォォ そんなみっともねーツラをこいつらに披露してやるこたぁねーぜ」 いつの間にか3人の周りには人だかりが出来ていた。そしてルイズは ハッと思い出した。自分の顔が、涙でぐしゃぐしゃだったことを。 本気だ。ギアッチョは、本気で私の為に行動してくれている。 ルイズはようやく気付いた。 ――ギアッチョは・・・私の味方なんだ・・・ こんなことになっても・・・ ギアッチョは味方でいてくれるんだ・・・! 我知らず起こる肩の震えを、ルイズは止めることが出来なかった。彼女の 宝石のような瞳から、今度こそ堰を切って溢れてきた涙と同様に。 「それで?そこのゼロのルイズの代わりに、平民の使い魔が僕の相手を 務めるっていうのかい?」 ギーシュはニヤニヤと笑ってギアッチョを見ている。 「さっきハッキリそう言ったはずだが・・・聞えなかったってワケか? え?マンモーニ ミミズを狩るのに獅子を使うのはちと贅沢だが・・・ 今回だけの特別サービスってことにしてやるぜ」 最初はヘラヘラ笑いながら聞いていたギーシュだが、次第に自分が 完全に下にみられていることに気付くと烈火の如く怒りだした。 「だッ・・・!誰がママっ子だって!?平民の分際でッ!よくも貴族に そんな口が利けたもんだね!!一つだけ言っておくが・・・決闘で 死んだとしてもそれは合法だ!!手加減してやるつもりだったが・・・ 無事にゼロの元へ戻れると思わないことだねッ!!」 ギーシュは忘れていた。昨日、自分達を縮み上がらせた彼の殺気を。 そしてルイズの爆発を恐れて遠巻きにサモン・サーヴァントを見ていた 彼には、ギアッチョがルイズを殺しかけたあの場面はせいぜい 「混乱した平民がゼロのルイズを押し倒した」程度にしか見えなかった のである。 ギアッチョが色をなくしたままの眼でギーシュを睨む。 「ならこっちも一つ聞くがよォォ~~ てめー『覚悟』はしてるん だろうなァ~~?オレを殺すつもりで来るってことはよォォ 逆に殺される『覚悟』は出来てるっつーワケだよなァァァ」 しかしギーシュは鼻で笑って答える。 「フン!覚悟だって?そんなものする必要はないね 何故なら 僕が負けるなんてことは万が一にも有り得ないからだ」 ギーシュの大見得にギャラリーがどっと笑う。 「そうだそうだ!」 「平民相手に遠慮するこたねーぞギーシュ!」 「身分の差ってものを教育してやれ!」 こいつらは――、とギアッチョは考えた。 ――こいつらの殆どは・・・昨日のことなんか見てもねぇし 覚えてもいねぇようだなァ~~・・・ 「ま、どっちだろーと関係ねーがな」 相手が化け物であろうと歩き始めたばかりの赤ん坊であろうと、 ギアッチョの「覚悟」に変わりはない。「覚悟」とは相手に合わせて コロコロ変えるものではない!ギアッチョはそう理解していた。 「今から5分後・・・ヴェストリの広場で待っている 言うまでもない 事だが――君が逃げれば君もゼロのルイズ同様直ちにこの 学院から退去してもらうよ せいぜい震えながらやってくるんだね」 ギーシュはそう言い放つと、ニヤニヤ笑いのまま去っていった。 ギーシュが去ると、3人を取り巻いていたギャラリーもギーシュと 一緒に広場へ向かっていった。 「ルイズ もういいぜ 頭を上げな」 ギアッチョが声をかけると、ルイズはごしごしと顔をこすって 立ち上がった。 「・・・ギアッチョ・・・」 ギアッチョは首をコキコキと鳴らしながら尋ねる。 「ルイズよォォ~ なんとかの広場ってのはどっちだ?」 「え・・・ あ、あっちよ ・・・あの、ギアッチョ・・・・・私」 ルイズが何か言おうとするが、 「話は後回しだ 5分後だからな・・・別にあいつをいくら待たせよーが 心は痛まねぇが 逃げたと思われるのも癪だからよォォ」 ギアッチョはそれを制して歩き出す。――逆の方向へと。 「・・・ギアッチョ?広場はあっち・・・」 「ルイズ おめーは先に行ってな オレはよォォ~ ちょっと 用事があるもんでな・・・ 待ってろ すぐにそっちに行く」 そうルイズに告げて、ギアッチョはどこかへ歩いていく。 「分かった ・・・待ってる」 もはやルイズは、万が一にもギアッチョの逃亡を疑わなかった。 私の為に戦ってくれるギアッチョの為に、自分に出来ることを しよう。ルイズはそう決意した。ギアッチョが戻ってくるまで、 逃げず、怯えず、うろたえず、ヴェストリの広場で待っていよう。 ルイズはスッと顔を上げると、広場に向かって駆け出した。 目的地に向かって歩くギアッチョの後ろから、「待ちなさい!」 という声がかかった。 「わりーが・・・後にしな 今は少々忙しいんでな」 しかし声の主はかまわず叫ぶ。 「あなたルイズをどうする気ッ!?」 その言葉を聞いて、ギアッチョはピタリと足を止めた。 「どうするつもりたぁ失礼なことを言うじゃあねーか ええ?おい」 肩越しに後ろを振り返ると、そこにいたのはあの赤髪の少女、 キュルケだった。 キュルケはさっきの騒ぎを最初から見ていた。二人の争いが いい加減ヤバくなってきたら仲裁に入るつもりだったのだが、 彼女の先を越して二人を仲裁したのは――更に酷いことになったが―― 意外にもギアッチョだったわけである。ルイズ共々殺されかけたキュルケが それを不審に思わぬはずはなかった。 「召喚されてそうそうあの子を殺しかけたと思ったら今度は 手のひら返したように責任を取るですって?」 キュルケは信じられないという風に首を振ると、キッとギアッチョを ねめつける。 「答えなさいッ!あなたは何者!?そしてルイズに何をする気!?」 ギアッチョはしばらくキュルケを見ていたが、やがて口を開いた。 「確か・・・てめーの家とルイズの家は・・・宿敵同士だと聞いたが」 「・・・あなた学校で習わなかったの?質問を質問で返すんじゃあ ないわッ!」 キュルケの眼は「マジ」だった。ギアッチョは小さく舌打ちをすると、 「オレが何者なのか・・・話してやってもいいが それには少々時間が 足りねーー 二つ目の質問にだけ答えてやる」 そう言うとギアッチョはキュルケに向き直る。 「答えは『別に何も』、だ ただし・・・これだけは言っておくぜ 命の恩人が侮辱されてるのを・・・黙って見ているバカはいねえ!」 「――!!」 昨日ルイズを殺そうとした男が、そして今日人目もはばからず 食堂で大暴れした男が、果たして本気で言っているのだろうか? キュルケには判断が出来なかった。ただ―― 「・・・今はその言葉で納得しておいてあげるわ」 もう少し様子を見てもいいか、とキュルケは思った。 「・・・あ、待って!」 再び背を向けて去ろうとするギアッチョに、キュルケは何かを 思い出したように声をかけた。ギアッチョは振り向かないが、 話を聞く意思だけはあるようだ。 「・・・用心なさい ギーシュはあんなのでもうちの学年じゃ かなりの上位に入る腕前よ」 ギアッチョがやられてしまえば、ルイズの人生はおしまいだ。 魔法が使えないまま使い魔を殺されて退学だなんて、ルイズで なくとも自殺を考えるほど最低最悪の事態である。しかし キュルケの忠告を、ギアッチョは鼻で笑って受け流す。 「フン・・・あのマンモーニが強かろーが弱かろーがよォォー オレには関係のないことだぜ」 「あなたフザけてるの!?ギーシュはナメてかかって勝てる 相手じゃ・・・」 「『覚悟』はッ!!」 ギアッチョはいきなり声を張り上げる。その大声にキュルケは 思わず身構えた。 「・・・オレの『覚悟』は・・・相手を選んだりはしねえーーッ! 相手がドラゴンだろーがウジ虫だろーがよォォ~~ オレは同じ 『覚悟』を持って戦いに挑むッ!!」 それだけ言うと、ギアッチョは圧倒されているキュルケを置いて 歩いていった。 「なんなの・・・あいつ・・・ 『覚悟』・・・・・・?」 「大丈夫」 突然聞えた声にキュルケが隣を見ると、いつの間に来ていたのか そこには透き通るような青い髪をした少女、タバサがいた。 「大丈夫・・・って?」 「昨日の戦闘」 タバサは短く言葉を繋ぐ。 「まだまだ力を隠してた」 「嘘でしょ・・・」 タバサの言葉は信頼出来る。キュルケは今更ながらギアッチョに 立ち向かった昨日の自分を思い出し、ゾクリと身震いした。 当たりをつけて覗いてみた食堂で、ギアッチョは目当ての 人物――シエスタを発見した。 「・・・あ、ギアッチョさん!ミス・ヴァリエールはご無事でしたか?」 メイド服の少女は食器を片付けながらギアッチョに声をかける。 デザートの配膳中にギーシュと言い争うルイズを発見し、いち早く ギアッチョに知らせたのはこのシエスタだった。 「ああ なーんにも問題はねえぜ」 「そうでしたか」 よかった、と答えて食器の片付けを続けるシエスタに、 「それはともかくよォォ~~ 一つ報告することがあってな」 ギアッチョは本題を切り出した。 「報告・・・ですか?」 「ああ まぁ大した話じゃないんだがよォォ~~~ 決闘することになった」 「・・・決闘・・・?」 ギアッチョの言った決闘の意味を量り切れないらしく、シエスタは オウム返しに同じ言葉を口にする。 「ええと・・・決闘って 誰と・・・誰がですか?」 「ああ? 誰ってオレに決まってるじゃあねーか 相手はルイズに 絡んでた・・・あー・・・そうだ、ギーシュとかいうマンモーニだ」 ・・・・・・。 どこかで見たような一瞬の沈黙の後、 ガッシャアアアアアアン!! シエスタの手から滑り落ちた3枚の皿が音を立てて砕けた。 「な、ななな何をやってるんですかギアッチョさんッ!! き、貴族と決闘だなんて 殺されてしまいます!!」 状況を理解した途端パニックに陥るシエスタをギアッチョは 片手で制して、 「落ち着けよシエスタよォォォ~~~ 死ぬのはギーシュの野郎 だぜ・・・それは決定してる オレが言いてーのはその話じゃあ ねーんだ」 口では軽く言っているが・・・ギアッチョは決して決闘を甘く見て いるわけではない。経過がどうなろうと、必ず「ギーシュを殺す」 という結果を出す。ギアッチョはそう「覚悟」しているのだ。 「シエスタ 今からよォーー 厨房の奴らを全員連れて・・・なんだ、 ヴ・・・ヴェ・・・ヴェラ・・・違うな、ヴォ・・・ヴァ・・・ヴァンダム・・・」 「・・・ヴェストリの・・・広場ですか・・・?」 「多分そいつだ そこまで来ちゃあくれねーか?咎められるよーなら 責任は全部オレが持つ」 シエスタはこの人なりの冗談なのだろうかと思った。しかしギアッチョの 眼は、悲しいほどに本気であった。 「決闘にゃあオレが勝つ・・・そいつは間違いねーんだが 別の意味で お前らを失望させちまうかも知れねえ・・・ しかしオレとお前らが同じ『平民』だと言うのならよォ・・・ こいつを 見せねーわけにゃあいかねーんだ」 さっきと同様、シエスタはギアッチョの言葉の意味を量りかねて いるようだった。しかしギアッチョはそんなシエスタの心中を忖度せず、 「頼んだぜ」とだけ言って食堂を出て行く。シエスタは一瞬逡巡したが、 「ま、待ってください!!」 やはりここでギアッチョを見送るのは、自分が殺すも同然だと思った。 「今日はよく後ろから呼び止められる日だなァァ~~ え?おい 決闘するなってんなら聞かねぇぜ 何度も言うがよォォーー オレの勝利、それだけは決定してるんだ」 「ギアッチョ・・・さん・・・」 そう言い放つギアッチョに妙なスゴ味を感じたシエスタは、それ以上 何も言うことが出来なくなった。 「おっと・・・もう決闘が始まる オレは先に行くぜ」 言うがはやいか、今にも泣き出しそうな顔のシエスタに目もくれず、 ギアッチョは食堂を飛び出して行ってしまった。 ルイズはギーシュと対峙していた。 「フフフ・・・あと大体30秒だが・・・君の使い魔はどこにいるのかな? ゼロのルイズ君」 ギーシュが心底哀れそうな声で――勿論演技だが――ルイズに語りかける。 「君の使い魔・・・随分とキレるのが早いようだが 逃げ足も速いようだねぇ プッ・・・ハハハハハ」 ギーシュはニヤニヤと笑う。それを聞いたギャラリー達もドッと笑っている。 「ギアッチョは来るわ」 ルイズはギーシュの眼を睨んだまま、短くそれだけを返す。例えどれだけ 笑われようが、どれだけなじられようが――ギアッチョは自分に待っていろと 言ったのだ。ならば自分は彼を信じて待つだけだ。 ――そうよ・・・、これが今の私があいつに返せる唯一の敬意 ならばどんな 侮辱だろうと罵倒だろうと・・・全て受け切ってみせるわッ! ルイズは知らず知らずのうちに『覚悟』していた。ギアッチョが来るまで、何が あろうと崩れないという『覚悟』を! ギーシュはなおも続ける。 「1分経過だ!おいおいゼロのルイズ!!いつまで僕らを待たせるつもりだい? 僕らだって暇じゃあないんだ!ほらほら、怖がらないで杖を取ってかかってきなよ! あの平民はもう森の中まで逃げてるかもなあ!ひょっとしたらもう森をうろつく 魔物に食われてしまっているかも!」 ギーシュの発言にギャラリーはまた爆笑する。キュルケは歯噛みしながらそれを 見ていたが、ルイズの眼に何の迷いも浮かんでいないのを知って飛び出したい 気持ちを抑えた。 ――あれが、あの平民が言っていた『覚悟』というやつなの・・・? キュルケのそんな疑問に答えるかのように、 「ギアッチョは・・・来るわ・・・!」 ルイズはただそれだけを繰り返した。そして・・・、 「やれやれ・・・ちょっとしたロスがあってよォォ~~~ ちぃとばかし遅れちまった みてーだなァァァ」 ざわつくギャラリーを掻き分けて、ギアッチョが姿を現した。 一秒たりともギーシュから眼をそむけなかったルイズは、そこでようやく全身の 力を抜いた。 「どーやら・・・頑張ってたみてーじゃあねーか え?ルイズ 後はオレに任せて そこで見てな」 またも意外なギアッチョのねぎらいである。 「お、遅いわよバカッ!」 などと照れ隠しに文句を言いながら、ルイズは非常な達成感と安心感を感じていた。 するとそこへ、 「ミス・ヴァリエール!!」 シエスタを先頭にマルトー達厨房の料理人や給仕達が駆けつけてきた。 「えーと・・・あなたは確かシエスタ・・・ こんなに大勢引き連れてどうしてここに?」 「分かりません・・・さっきギアッチョさんが食堂にやってきて 決闘をするから 見に来て欲しいと・・・」 「そう・・・ ・・・まさかあいつ・・・」 ルイズは理解した。ギアッチョはシエスタやマルトー達と対等に向き合う為に、敢えて スタンドを見せることを決意したのだ。メイジだと――貴族だと思われる危険を冒して。 今、ギアッチョはそれほどまでに仲間というものに惹かれていた。 「ようやく来たようだねぇ面白頭君 てっきりもうアルビオンあたりまで逃げ出してる んじゃあないかと思っていたよ」 ギーシュは心底愉快そうに言った。アルビオンとやらがどこにあるかは勿論知らな かったが、その挑発のあまりの陳腐さにギアッチョはキレる気にもならなかった。 「逃げる?今逃げるっつったかァ~てめー?こいつは傑作だな!ええ?おい!」 わざわざギーシュがルイズに使った言葉でギアッチョは罵倒を返す。 「このギアッチョがてめー如きに逃げる必要なんざ全宇宙を探したって見つかり そうにねーもんだがよォォォーーー 見つかるのはせいぜいてめー相手の決闘を 『やめてやる』理由ぐれーだぜ ええ?オイッ!」 ギャラリーから失笑が漏れた。ギアッチョはそのまま続けてギーシュを挑発する。 「今ここでよォォ~~~ 土下座をしてルイズに謝ってから学院を出て行きな! そうすりゃあ『命までは』とらないでおいてやるぜマンモーニ!!ええ!? やってみろよおい!!ああ!?」 ギーシュがルイズに言ったことをちょっとグレードアップさせただけのその挑発に、 ギーシュの怒りはいともたやすく爆発してしまった。 「きき、貴様ぁああーーーーッ!!!もう命乞いをしたって許さないぞッ!! 今ッ!!決闘を開始するッ!!!泣いて詫びろ平民がァーーーーーッ!!!」 「ハッ!てめーが言ったことを言い返されただけで面白いよーにキレてくれる じゃあねーかマンモーニッ!!少なくともてめーの薄っぺらくて小汚ェ精神 よりゃあよォォーー このルイズのほうがよっぽど上等な魂を持ってるぜッ!!」 ギーシュが懐から乱暴に造花の薔薇を取り出すと同時に、ギアッチョの双眸が スッと色をなくし――2人の決闘が始まった。
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キュルケは次に、『催眠術』説の可能性を考えた。 これは有りうるかも--と思った。 自分はあの時、認めざるを得ないが、完璧にDIOのペースに巻き込まれていた。 恐れを為していた。 その心の隙をつかれたと考えれば、一応の筋が通った。 だが………それだけだ……とキュルケはかぶりをふった。 いくら推論だけ論理を通しても、キュルケの頭にかかる靄は晴れなかった。 あれがそんなチャチな子供だましだとは到底納得できない。 もっと恐ろしいモノの片鱗であるのだと、キュルケは頭ではなく心で理解した。 --何か、もっと恐ろしい、絶望的な何かだ。 そこで思考を止めたキュルケは、ひとまず図書室から出ることにした。 こんな所もう1秒たりともいたくなかった。 フラフラとおぼつかない足取りで、図書室から脱出する。 今更ながら、今が昼であることを知るキュルケ。廊下に溢れる太陽の光に、彼女には救われる思いだった。 深呼吸して、清浄な空気を胸一杯に取り込む。 だが、極度の緊張から解放されたと意識した途端に、胃が痙攣し、たまらずトイレに駆け込み、吐いた。 無様に胃液をぶちまけ、キュルケは涙を流した。 その涙を、逆流した胃液が気管を刺激したせいにして、キュルケは泣き崩れた。 ---今しばらくは、おとなしくしているよ…… キュルケの頭に、先ほどのDIOの言葉が、何時までもこびりついて離れなかった。 『今しばらく』は……。 キュルケは、もはやこのハルケギニアに安穏の朝は二度と訪れないことを知り、再び泣いた。 to be continued……
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そうだとしたら、タバサのあの異変の説明が付かなかった。 流言飛語で煙に巻くつもりだ--キュルケは腹に力を込め、DIOの甘言に惑わされまいとした。DIOが何もしなくても、DIOの方が正しいのではないかと自分の方から心が揺らいでしまう所が、DIOの恐ろしいところだった。 ---絶対のカリスマ。 キュルケは、これ以上奴に喋らせれば、自分の善悪の観念が根底からひっくり返されるかもしれないと感じた。 頭ではない、本能の警告に従うままに、キュルケはDIOの胸倉を掴み、本棚にドンとに叩きつけた。 衝撃で本が何冊かバサバサと落下した。 「ホザきなさいよ…!」 ギリギリと胸倉を締め上げる。 キュルケはDIOの目を真正面から睨みつけた。艶やかで優しい目が、キュルケを見返した。 「苦しいよ……キュルケ。暴力はいけない。無抵抗の怪我人に…手を挙げるのが、君たちのいう貴族の流儀なのかい…?」 その目に安心を感じ、怒りの炎が沈静化してしまう心に、無理やり油を流し込んだ。 「黙りなさい…!!今度タバサに手を出してみなさい……ッ!!そのときは…」 「そのときは………どうするのかね…?」 感情の一切こもらないDIOの促しだった。 「そのときは……この『微熱』のキュルケが、アンタを焼き尽くすわ……」 再びDIOを本棚に叩きつけて、キュルケは胸倉から手を放した。 DIOは芝居掛かった仕草で胸元を払い、服装を正しす。 そして大仰に溜め息をついた。 「それはコワい……。…肝に銘じておくよ。」 DIOはそれだけ言うと、話は終わりとばかりにキュルケの脇を通り、机に座って読書を再開した。 先ほどの言葉とは全く裏腹なDIOの態度に、キュルケは堪忍袋の緒が切れた。 (---ッバカにして!!) 単なる脅しだとでも思ってるのだろうか? だとしたら随分と舐められたものだと、キュルケは思った。 一度痛い目を見ないと、コイツにはわからないようだ。 キュルケは静かに杖を取り出した。 相も変わらずDIOは背を向けて読書に集中しているようで、いくらか場数を踏んでいるキュルケには、隙だらけに見えた。 ゆっくりとDIOに歩み寄る。 すぐ真後ろまで迫っても、DIOは本に目を落としたままだ。 肩越しに見えた小児用の本の中に描かれている子供の挿し絵が、無責任な笑顔を振りまいている。キュルケは、その子供の笑顔がDIOの嘲笑に重なって見え、無性に癪に障った。 不意にDIOが低い声で言った。 「…どうした?まだ何かあるのか…?」 どうでもいいといった口調がこれまた癪に障り、キュルケは無言で杖をDIOに向けた。 ピタリと狙いを定める。 ---数瞬の沈黙があった。 「---本当にやるのか?」 すべてを見透かしたようなDIOの突然のセリフに、一瞬硬直したキュルケだったが、すでに自分が必殺の間合いに入っていることを思い直し、感情を殺して冷徹に杖を振りかざした。 次の瞬間--- "ドォォォオオン!!" キュルケの目の前から、DIOが姿を消した。 自分の理解を越えた出来事に、杖を振りかざした姿勢のまま呆然とするキュルケ。 読みかけだったDIOの本が、床にバサリと落ちた。 挿し絵の子供が、自分をバカにしている気がした。 ---ポンッと、肩を叩かれた。 それが誰によるものかようやく思考が追い付いた瞬間、キュルケは自分の体がダラダラと嫌な汗をかくのを感じた。 一体いつの間に…… キュルケは自分の心臓が氷でできた手のひらで鷲掴みにされた気持ちだった。 DIOの吐息が耳にはあっと掛かった。 5へ